サファイア

読んだ本

湊かなえさんの『サファイア』を読みました。
湊さんの小説は『境遇』以来です。

境遇
湊かなえさんの『境遇』を読みました。湊さんの小説は『告白』以来です。 レビューにもあった通り、私にも聞いててある程度話の流れが読めていたというか、最後は「まぁそうだろうな」と思っていたところに落ち着いたという印象はありました。ただ、ナレーシ

今回の小説は短編集でした。
すべて宝石の名前を冠した作品です。
内容も多岐に渡っていて、さすが湊さんだなと。
『宝石』の話ということもあり、やっぱり女性がメインになるものばかりでした。
朗読は永作博美さん。
もともと素敵な女性で好きな方なんですが、今回の朗読でますます好きになりましたねー!

1つ目は『真珠』。
これは何という話だ…。
前情報まったくなしに読み始めたんですが、内容についてものすごく驚きました。
はじめ、どういうシチュエーションなのかがまったくわからなかったんです。
『おばさんの話を聞きに来た男性』という感じで、おばさんが昔話に花を咲かせるのをひたすら黙って聞いている感じでした。
「なんだこの話は?」と思ったら、最後の方に行くにつれて種明かしがされていきます。
まさか「終売になった歯磨き粉を復活させて欲しいがために放火を犯した」だと…?
そんなことあるんかい! と思って。
しかもよくよく聞いていくと、どうやら今回が初めてではないみたいなんですよ。
希代の放火魔じゃないですか。
「ムーンラビットイチゴ味」っていうフレーズがしばらくは脳裏から離れなさそうになります。
一つのことに執着しすぎると狂信者のようになるというか、盲目というか。
そういういい例なのかな…。
ちょっと本当に頭おかしいっぽくて、なんだか怖かったです。
ただ、歯磨き粉やシャンプーが取り持った淡い恋話としてはすごくおもしろかったです。
…でも、実際にこんな人を目の前にしたら、かなりドン引きしちゃうだろうなと思いますけど…。 

2つ目は『ルビー』。
確かに、『服役を終えた老人をどうするか問題』っていうのはあると思うので、この物語に出てくるような特殊な老人ホームというのはあってもいいのかもしれないですね。
高齢者だから、それなりに男性の数がいれば、『何か』を起こすということもなさそうな気もします。
過去の事件から浮かび上がってくる『おいちゃん』の生い立ち、お母さんの天真爛漫さ、お父さんのぼくとつさ、妹のちょっとの無謀さ、いろいろ絡まり合っておもしろい物語でした。
「妹は多分、その施設の男の子と恋仲なんだろうな」というのはなんとなくわかったんですが、まさかそこから個人情報が漏れていたとは。
そして、お母さんがもらったそのルビーのブローチ。
「趣味悪い」って言ってたけど、時価総額1億円かー!
畑仕事をの時にうっかり無くしたり壊したりしないようにしてもらいたいです。
あ、でもデザインじゃなくて石単体の値段なのかな?
むしろ壊れたほうがいい?
にしても、あと余命3ヶ月ぐらいでそれだけ元気で楽しそうに生きているんだったら、晩年は悪くなかったのかもしれないですね。
そういう穏やかな面を見せられていても、実際は人一人殺してるわけですから、本当であれば恐ろしい人なんでしょうけどね…。
このお母さんのように、そういうバックグラウンドも全部なかったことにして、普通にニュートラルに接することは…私はできないかなー。
ということは、私はそのルビーのブローチはいただけないということですけどね…。

3つ目は『ダイヤモンド』。
正直展開は予想できたし、「最後死んじゃうんだろうな」っていうのもなんとなくわかったんですけど。
最後の最後はちょっと目が覚めるようなゾッとした感じがありました。
一体どこまでが本当でどこまでが妄想だったの…? みたいな感じ。
願わくは全部リアルだったらいいなと思うんだけど…。
本当に雀はいたんだと。
まぁそれにしても、女性経験が少なすぎる(というか、ほぼ皆無?)と、こんな見え見えな感じに騙されちゃうのかなーって心配になります。
もちろんかわいそうっちゃかわいそうなんですけど、状況をちゃんと分析できていないから自業自得だとも思ってしまいます。
そもそも、まったくまともに話せてないじゃん…。
そんな状態でいきなり『結婚』とかないわー。
「捕まって警察に言おうかなと思う」って言っていましたが、言ったところでどうなるんでしょうか?
精神鑑定かな…、うーーーん。
永作さんは本当にナレーションがうまくて、雀の声とか腹を抱えて笑ってしまいました。
演じ分けも本当に上手で、いやー素晴らしいなと思いました。

4つ目は『猫目石』。
何という不気味な話…。
結局、坂口さんは何だったの…?
永作さんの声のトーンが、前章の『ダイヤモンド』の雀と同じような甲高い声だったから、ひょっとしてまた猫の化身かなんかなのかなと思ったんですが…。
ただの変な人だった、ってことで OK でしょうか?
にしても、3人家族でそれぞれがそれぞれの『弱点』というか『弱み』を握らされた感じの話でした。
でも、お母さんが一枚上手で、猫を使って坂口さんをおびき寄せて、交通事故に見せかけて殺害した…いや、交通事故を誘発したていう感じなのかな。
結局、お父さんのリストラは家族に普通に打ち明けられて、受け入れられた感じでした。
でも、図書館で封筒を受け取っていたのは何だったの?
娘は結局援交かパパ活なんかしてたってこと?
お母さんの万引きは前の買い物と相殺してたっていうのはなかなか面白かったですけど…。
それぞれのそれが弱みとして別の人に握られてて…みたいな、変な三つ巴状態になっていました。
坂口さんも、変なことに首を突っ込まなければ生きていられたのに…っていう感じでしょうか。
結局、猫のエリは最後には不気味がられて「気持ち悪い」って言われて、そのままどうなるんだろう…。
てっきり飼ってあげるのかなと思ったけど、そんな感じでもなさそうですね。
本当、トータルで不気味な話でした。 

5つ目は『ムーンストーン』。
びっくりするぐらいいい話だった!
わざなんでしょうけど、途中まで『どっち』が『どっち』なのかを明かさず書かれていて、ずっと独白してるのが久実で、夫を殺してしまったのも久実だと思って聞いていました。
最後の最後で名前が出て立場が逆転したので、なんか強烈なアハ体験のようなものを感じました…!
確かに、旦那さんを殺してしまったのは悲劇としか言いようがない感じでした。
でも、じゃぁこれからどういう風に弁護を組み立てて、彼女の罪をできる限り軽くしていくのか、腕を見せて欲しいなと思います。
そこまで描かれていないのはとっても残念ですけど、きっといい方向に導いてくれただろうなと思います。
久実にとって小百合は、本当にかけがえのない大切な友達だったんだろうなと思いました。
自分の力を解放してくれたきっかけになって、今の自分の礎を作ってくれた大事な人。
その人がピンチになっていたら、「助けにいかない」なんて選択肢は無い。
そんな気持ちを持って会いに来たんだろうなと思います。
そういう友人がいて、正直羨ましいです。
これからもずっと仲良くしていってほしいなと思います。
…しかし、いやー、ずるいよね!
本当に強烈な逆転体験でした。
まさか、あんなに引っ込み思案だった子が弁護士になってテレビでも活躍してるなんて。
というか、「流れで議員の奥さんになるぐらいだったら、まぁあるだろうな」と思っていたので、本当に驚きました。
脳みそがグルンと一回転したような感じでした。

6つ目は『サファイア』。
表題作です。
何と言うか、やりきれない話だなと思いました。
人生において初めて心を開いた人が死んでしまって、そのあと残された彼女はずっと彼を思いながら生きていくのかな、と。
彼と会えたのは偶然だったけど、なんか必然なような気もして、2人は導かれるように惹かれあったのに。
幸せになってほしかったな。
悲しいです。
バイトは本当に偶然で、別に隣の田中も意地悪してやろうと思ったわけでもないのに、あんなことになってしまったというのは…不幸としか言いようがないと思いました。
結局、彼を『殺した』のが誰なのかわからないし、そもそも殺されたのかもわからない。
「誰かに殺された」と思った方が彼女は早く立ち直れそうですけど…。
でも、遺族にとっては死んでしまった子の顔に泥を塗るようなものだから、そっちの方向では進めないで欲しいと思ってしまいますね…。
悲しい話でした。 

最後は『ガーネット』。
ここだけまさかの連作でした。
『サファイア』のあとのお話です。
はじめに「なんでこんなに辛気臭い小説読ませるんだ」と入っていたから、すごく笑ってしまいました。
まぁ、『サファイア』はちょっと辛気臭かったかもしれませんね。
主人公の女性がその後どうなったかが描かれていました。
彼女は就職して、いろいろパワハラを受けたりもしたけど、たまたま応募した小説が賞に入り作家としてデビュー。
今度作品が映画化されることになって、その主演の女性との対談に挑むという場面でした。
対談中、話の流れがなんかだんだん嫌な方向に行くような気がしてきて、「ひょっとしてこの主演の女性が、まさか彼を殺した人なんじゃないか…?」と思うんですけど、そんなことはなくて。
むしろ彼女は、その『詐欺で買ってしまった指輪』を得たことによって、自分を見つけることができた、プラスの方向にエネルギーを転換できたいい人でした。
それだけでもなんだかすっきりしたのに、さらに後日作家のもとにファンレターが届きます。
その対談の内容がすごく良かったと書かれていました。
その手紙にも書いてあったんですが「どうして女優じゃなく、この作家の方にファンレターをよこしたんだろう…?」と思っていたら、ファンレターには「作家が対談のときに持っていた『かばん』に見覚えがある」と繋がっていきます。
そのかばんは、亡き彼に彼女がプレゼントしたもので、形見分けでもらったものでした。
で、「まさか、この手紙の人が彼を殺したんじゃないか…」と思ってまたドキドキし始めたんですけど、多分それでもなくて。
そのファンレターの女性も、ちゃんとその『詐欺の指輪』をプラスのエネルギーとして消化できた人でした。
その瞬間に、作家の女性がずっと抱いていた辛い思い・苦しい感情が、全部昇華されたなって感じました。
彼はもう二度と夢には出てこないかもしれないけど、それでよかったんじゃないかなと思います。
この先彼女は新しい人を見つけて、恋愛をするかどうかっていうのはまた別の話になるだろうし、幸せになってほしいとも思います。
でも今、彼のことにきちんと区切りをつけられたのは、本当に良かったなと思いました。
…真相はわかりませんが、やっぱり彼は事故死だったんじゃないかな、と。
その方がいいと思いました。
彼のお姉さんが言ったことは正解だったんだなって。
誰かを憎んで生きていくなんて辛いですから。
最後に、田中の絵葉書を見て「幸せになってください」って言えたのが素晴らしいなと思いました。
…にしても、編集担当の人、手紙に関する嗅覚すごいなと思いましたねー。
作家の彼女をこれからも末永く支えていてあげてほしいです。
なんかスッキリして、すごくいい話でした。 

7つの話の中では、『ムーンストーン』が一番好きです。
次点は『ガーネット』。
不気味なものからとってもいい話まで入っていて、いい短編集だなと思いました。
表題作を『ガーネット』ではなく『サファイア』としたのはなぜなんでしょうかね。
…ガーネットよりもサファイアのほうが、メジャーだしきれいだからかな、なんてうがった見方をしてしまいます。
私、誕生石ガーネットなんですけど、サファイアのほうが好きですね…。
FF9 でも、『ガーネット』って名前微妙だなって思っていました。
『ダガー』はもっと微妙だなと思いますけど(笑)。

2016年にテレビドラマ『美しき三つの嘘』で『ムーンストーン』が映像化されていたそうです。
見たかったなー。
その時に、主演だったのが永作博美さんだったようで。
今回はその縁なんでしょうね。
…湊さんの Audible は、今のところ全部そんなつながりの女優さんで、なんだかとってもゴージャスですね。
まだたくさんあるので嬉しいです。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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