阿部暁子さんの『カフネ』を読みました。
阿部さんの小説は『金環日蝕』以来です。
前回の『金環日蝕』もとってもおもしろかったんですが、今回の『カフネ』はそれに輪をかけておもしろかったです…!
すっかり著者の阿部さんのファンになってしまいました。
今回も、登場人物それぞれが心の奥に溶かしきれない辛さを抱えていました。
でも本当に悪い人なんて一人にもいなくて、みんな優しい世界でしたね…。
夫と急に離婚することになり、さらに最愛の弟までも亡くしてしまった主人公が、その弟の元恋人と不思議な交流を始める、という話でした。
なぜ夫に離婚を迫られたのかもわからない。
弟の死因は病気なのか事故なのか、もしかして自殺なのかもわからない。
もやもやだらけで悶々としてしまいます。
さらに、自分の両親から愛されたいにも関わらず、死んでしまった弟のスペアみたいな扱いで、いつも心が苦しい。
酒に溺れてダメになってしまう直前で、弟の元恋人になぜか助けられて、彼女と一緒にボランティア活動を始めます。
ストーリー流れがとてもスムーズで、いちいち心をぎゅっと掴まれるようなシーンばかりで、読んでる間何度泣いたことか。
弟の恋人・せつなが、どんなに辛い人生を送ってきたか。
本当は相手から愛されて自分も愛したいのに、不器用すぎてどうしていいかわからない、というところが胸に刺さります。
せつなの不器用さに、最初は「本当なんなんだ、こいつ」と思わされるんですが、それが彼女の防御スタイルというか、そうやって今までも身を守ってきたんだなというのがわかってきくると、その態度も愛おしく感じました。
亡くなった弟・晴彦、彼は両親の愛情を一心に受け、周りのみんなから愛されてつらいことなんてない人生…のように見えていました。
でも深掘りしていくと、彼も様々なしんどさを抱えていて、そんな中でせつなと出会えたのが神様からの贈り物のようだなと思いました。
途中、せつなが主人公・薫子に、せつなと晴彦が一緒に食べた料理を再現してくれるシーンが何度かありました。
それらの料理がだいぶハデハデしいものばっかりだな、と思っていたんですが…。
その理由が明かされたとき、「晴彦も本当にしんどかったんだろうな、辛かったんだろうな」と思って泣きました。
おいしいものをおいしく食べられるというのは、本当に幸せなことですね。
帰ってきて、家がちゃんと片付いていて、おいしいくてあったかい手料理(じゃなくてももちろんいいけど)があるというのは、本当に幸せで心が満たされることなんだなというのが、本当に改めてよくわかりました。
今の私は、それを『提供する側』なので…今までも一応いろいろ考えてやってきたつもりではありましたが、これからはもっと考えていきたいなと思いました。
最初に「弟の遺体の第一発見者となった人が合鍵を持っている」というところがすごく引っかかったんですよね…。
やっぱり、そういうことか、と。
ああいう両親だから認めてもらえることもないでしょうし、彼も天使のような笑顔の裏では本当に大変だったんだろうな、と。
…まぁ、大変じゃない人なんて誰もいないとは思いますけどね。
身重の時に夫に捨てられたことを、今はあっけらかんと話せるようになっている斗季子さんも、すごくいい人でした。
薫子がボランティアとして関わった利用者たちも、それぞれみんな抱えてるものは違えど辛いことがあり、そしてみんないい人たちでした。
私はあまりボランティアというものに参加したことがないんですが、そうやって『人を助ける』ことによって『自分が救われる』という部分がものすごくたくさんあるんだろうなと思いました。
物語の一番最後の『提案』については…まぁ正直「何を言い出したんだ、この人」と思って驚きました。
その『制度』はそういう使い方をしていいのかとびっくりもしました。
ただ、法務局の人がそう言ってるんだから、きっとそう使っている人もいるんだろうな、と思い直しました。
まー、ちょっと新鮮な気持ちです。
あまりにも急で突飛な提案でしたから、せつながこの後それを受け入れるかどうかはまったくわからないですね。
ただ、薫子もそれを強要することはないんでしょうけどね。
でも、そんな提案をするに至った彼女の気持ちとか、全部きちんと受け止めてからよく考えて欲しいなと思いました。
薫子にとって、せつなは本当に恩人なんだろうな、と。
人と人との関係は、必ずしも恋愛関係や結婚に至る愛だけではなくて、こういう男女間の友情や同性同士の友情もあって、そういうもので世界が成り立っているんだな、と思いました。
Audible で読みました。
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