オリンピックの身代金 下

読んだ本

奥田英朗さんの『オリンピックの身代金 下』を読みました。
先日の『オリンピックの身代金 上』の続刊です。

オリンピックの身代金 上
奥田英朗さんの『オリンピックの身代金 上』を読みました。奥田さんの小説は、以前に『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』を読んだことがありました。どちらも『精神科医・伊良部シリーズ』で、めちゃくちゃ笑える小説でした。なので、読み終えて、この小...

いやー、泣きました、本当に。
何というか、『テロリスト』側の気持ちも『警察』側の気持ちも痛いほど伝わってくる感じで、どっちが正しいのか、正直ちょっと分からなくなるところもありました。
もちろん、爆弾を仕掛けるとかオリンピックの開会式を妨害するとかはやってはいけないことだから、島崎くんの方が悪いです。
でも、労働者として東京オリンピックの工事に携わったり、人夫たちに囲まれて。
すごく心があったかくて優しい彼らと生活して、故郷のことを思って、この理不尽な経済格差みたいなものを見せつけられて。
それで今回のような大それたことを計画してしまうというのも、わかるような気がします。

人夫の大半はとても優しくていい人たちだけど、でも『人夫』をやって生きていくしかない人達でした。
『手持ちのカードで戦うしかない』という言葉はよく聞きますが、島崎くんはせっかくいい『カード』をたくさん持ってたはずなのに、こんな結果になってしまったのはすごくもったいないなと思います。
人夫の同僚たちに「偉い人になって日本を変えてほしい」って言われて、それがすごく心に刺さってたいたのに…。
人夫たちにとっては、島崎くんのような子と知り合う機会もなかったでしょうし、本当にそういう気持ちが強かったんだろうなと思います。
自分たちでは到底無理だから、せっかく仲良くなれた賢い東大生に、「どうか日本を変えてほしい」という思いを託したんですよね…。
でも、島崎くんはそっちに行かずにテロリストになってしまった。
本当に残念だし、もったいないなと思ってしまいます。
でも、そういうとこに行ってしまうような優しい心の持ち主だから、例えば官僚なんかになったとしても、日本を変えられるほど出世できるかな…っていう気持ちもありますけどね…。

彼はこの場合、どれぐらいの罪に問われるんでしょうか。
『テロ等準備罪』だと死刑とか無期懲役なんかですよね…。
ここで、村田さんの「死なさんでけれ」が、現実味を帯びて来てしまうわけですね…。
仮に刑期を終えて出所できたとしても、以前読んだ『64』の幸田さんみたいに、ずっと公安に見張られるような一生を送るようになってしまうんでしょうか。

64 下
横山秀夫さんの『64 下』を読みました。先日の『64 上』の続きです。 すごい話でした…。今までの流れを全部きれいに練り上げて、最後まで流し出したという感じでした。圧巻です。 三上さんはようやく娘さんのことを消化できたというか、「生きてさえ

村田さんも、人夫にはなっていないですけど、やっぱり辛い人生を送ってきた人でした。
島崎くんを息子のように思い、協力しつつも本当は止めさせてあげたかったのかな…とも思います。
2人とも、もっと違う形で生きて欲しかったなと思います。

島崎くんの生い立ちについては、この物語が始まってからのものしかほとんど知りません。
お兄さんの気持ちを知りたいから人夫になって、アルバイトで肉体労働して。
そのあたりまでは良かったんですが、ヒロポンを打ってしまったあたりからグズグズと崩れてしまったかな…と思います。
せめてヒロポンを打たなければ、こんな大それたことしなかったかもしれないなって思うんですけど、どうでしょうね…。

一方で、警察側も「国家の威信をかけた一大プロジェクトを、何としてでも成功させなければいけない」というすごく強い想いが伝わってきました。
現場で走り回っている人たちは『駒』ではあるんですけど、そういう人たちが全力でこうやって守ってくれているからこそ、私のような一般市民は平和に暮らしていけるんですよね。
古本屋の良子ちゃんたちが最後のトリを飾ってくれましたが、彼女たちは我々一般市民の『代表』として描かれていました。
一瞬、「島崎くんのせいで悪い方向に連れて行かれちゃうのかな」と心配しましたが、そういうこともなく。
この先も、島崎くんが結局どうなったかを知らずに大人になって…と、『普通』の人生を送っていくのかなと思いました。
そして、それをきっと警察の人たちは守ってくれたんだろうなと思います。
でもまぁ、本郷に店舗を持つ家のお嬢さんである良子ちゃんは『一般市民代表』ではないかもしれませんけどね。

落合さんの娘さんの名前を『聖子』にするって、すごくいいなと思いました。
そうやってみんなから祝福されて生まれてきて、オリンピックの聖火からもらった名前で、戦後の平和な日本でのびのびと大きくなっていってほしいですね。

『前回』の東京オリンピックは昭和39年でした。
一方で、数年前に再度東京オリンピックがありました。
その時とは環境も違うし、国民の『愛国心』も違うし、小説の舞台とは全然違うなと思いました。
オリンピック絡みのいろんな事件もあって、正直かなりがっかりする感じで終わってしまって悲しかったです。
もう、純粋に『国民一丸となって楽しめるイベント』は、この先現れないのかもしれないですね。
まぁ、それもちょっと寂しいですが、当然なのかもしれません。
いろいろなことを考えさせられる小説でした。

余談ですが、今回も Kindle の読み上げで聞いていました。
その際、「黒山の人だかり」の『黒山』を「ネクロゴンド」と読み上げたんですね。
びっくりして文面を確認したら『黒山』でした。
で、それを夫に話そうと思って、その部分の読み上げを再生したんです。
そのとき、いつもは3.1倍で聞いているところを1.2倍くらいにして再生したところ、普通に「くろやま」と発音していました。
…え、再生速度が早いと、読み方って変わるもんなの…?
しかも、「くろやま」と「ネクロゴンド」だと、前者のほうが文字数少ないじゃん…。
そういえば、樺沢先生の本などに『海馬』とあってよく「シーホース」って読まれることが多かったんですが、それは3.1倍速だったからなのか…と。
なんというか…奥深い…のか?
まー、内容とは関係ない話でした。

Kindle Unlimited で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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