オリンピックの身代金 上

読んだ本

奥田英朗さんの『オリンピックの身代金 上』を読みました。

奥田さんの小説は、以前に『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』を読んだことがありました。
どちらも『精神科医・伊良部シリーズ』で、めちゃくちゃ笑える小説でした。
なので、読み終えて、この小説が同じ奥田さんだと知って、大変失礼ですが正直びっくりしてしまいました。

『オリンピックの身代金』は、ネットで『おすすめ本』なんかで検索すると結構な確率で上がってくるタイトルです。
私もずっと読みたいと思っていたんですが、たまたま Kindle Unlimited で見つけたので小躍りしながら読み始めました。

図らずも、先日の『嘘と正典』の表題作『嘘と正典』と同じ『共産主義』がキーになってくる物語でした。

嘘と正典
小川哲さんの『嘘と正典』を読みました。小川さんの小説は、以前『ゲームの王国』を読んだことがあります。読んだのが2023年の1月ころだったのでこのブログには書いていないんですが、すごく怖かったのを覚えています。ホラー小説ではないんですが、自分...

主人公の島崎くんは秋田の出身、そこもなんだか親近感が湧いてしまいました。
私は住んだことはないんですが、私の両親は秋田出身なんです。
久しぶりに聞く(?)秋田弁に、なんか楽しくなってしまいました。

そして、島崎くんの出身地・秋田県熊沢村(架空の村?)に住んでいる人たちが、なんというか素朴というか…。
年中農作業をしていて、色が浅黒かったり、年よりもずっと老けて見えたりすることも、両親の実家に行ったときのことを思い出しました。
故郷はこんなに貧しい状態なのに、自分は1人東大に進学して『東京』を謳歌している。
そんな罪悪感に常に囚われている島崎くん。
東京で洒落た暮らしをしている人たちを見て、「不公平だな」と思う気持ちはわかるような気がします。
当時の東京と秋田のような地方都市では、いろんなもののチャンスの数も圧倒的に違いますし、そこに住む人の人生もまったく違うものでしょう。
でも島崎くんは、そこで自分の幸運を喜ぶのではなく、地元の人たちの不幸を嘆いてしまった。
そして、悪くヒロポンなんかを打っていたがために変に行動力がついてしまって、こんなことをしでかしてしまった…ということなんでしょうか。

始めに読んでいるときは、ちょっと色男とはいえまさかこんな素朴な青年が、こんな大それたことするはずないと思っていて、なんか陥れられちゃったのかなとか思ってたんです。
でも、ここまで読んできた中では、やっぱり本当に彼がやったっぽくて、悲しい気持ちになりました。
運良く東京に出て来られて、しかも東大なんかに通えるような素晴らしい頭脳の持ち主にもかかわらず、本当にもったいないなって。
兄の不慮の死になんだか納得がいかなくて、自分をそこまで落とそうとしてしまっています。
兄の生活をなぞっているうちに、その不遇さに打ちひしがれてしまったという気持ちも、わからないでもないです。
だけど、本当にもったいないな…。

戦後間もなく、それこそオリンピックが開催されるあたりっていうのは、なんか今の世の中と比べても、変に『上昇志向』だったり、それこそ『テレビ局っぽいノリ』が世の中に蔓延してて、まぁさぞかし居心地が悪い空間だったんだろうなと思ってしまいます。
その時代に生まれてなくてよかった…って正直思います…。
『人夫』などやっている人たちの生活なんかは、まぁ大変だったことでしょう。

まぁそんな中で、それこそ『マルクス経済学』とか、『共産主義』『社会主義』みたいなのを勉強していたら、そっちに傾倒してしまう気持ちもわかっちゃうよな…と。
それこそ、『嘘と正典』みたいに。

この『上巻』はちょっと息苦しくなりながら読みました。
もちろん、そこがおもしろいんですけどね…。
『下巻』も楽しみですけど…島崎くんはどうなってしまうんでしょうかね…。

Kindle Unlimited で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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