朝井リョウさんの『どうしても生きてる』を読みました。
朝井さんの小説は『何者』以来です。
朝井さんの小説は2冊目。
「それで何を語る」とファンの方には怒られそうですが、なんというか、朝井さんの小説は読んでいて結構つらいです。
「おもしろくない」というわけでは、まったくないです。とてもおもしろい。
でも、それを素直に「おもしろい」と読んでいていいのか? と考えてしまいます。
多分、題材が身近でわかりやすくて、でも切り口が鋭すぎて、ガスガス斬りつけられているんだろうな…と思いました。
今回の小説も、すぐ近くで起きていることのようでいて、誰にも触れられたくない部分が描かれちゃっています。
おもしろいし、続きをもっと読みたいんだけど、つらい。
不思議な感覚になります。
6つの短編が入っていました。
タイトルの『どうしても生きてる』という短編がなかったんですけど、これは登場人物たちの共通の気持ちってことなんだろうな…。
1つ目『健やかな論理』。
これ、はじめは意味がつかめなくて、「この人が何かしてたりするの…?」と妙な想像が働いてしまいました。
なるほどそういう意味だったのか、と納得すると同時に、この女性が『そっち側』に行ってしまわないかとハラハラしました。
そんなことはなかったので、まぁ良かったです。
なんか、この虚無っぽい感じは思い当たる節がありますね…。
私もバツイチなんですけど、私の場合は離婚したあとはそういう気持ちにはあまりならなかったんですが、最初の結婚をする直前はこういう感じになっていたな…と思い出しました。
で、ちょっと泣けてきました。
2つ目『流転』。
(多分)『バクマン』を見て原作者を目指していた男性の話。
彼女の妊娠によって夢を諦めて生きてきたけど、「もう1回」と友人と独立しようとしたところに水を差された感じ。
そして、多分『残る』という選択肢を選ぶだろう、というところで終了。
夢を諦めてしまったとしても、この先も人生をまっとうするまで生き続けなければいけない、という苦しみがあるように思いました。
ある意味責任感が強いのかな…。
もっとなぁなぁで生きている人もたくさんいるのに。
特に、奥さんとの関係は、なんか切ないなー…と思いました。
やり直し、効くと思うんですけどね…。
そのまま行くこともなかったのに。
冒頭、役員に会議室へ呼び出されるところから始まるんですが、「不倫でもしたのかな?」と思ってしまいました…。
3つ目『七分二十四秒めへ』。
派遣止めに遭って、次仕事が見つからない状態で、新しくきた人に引き継ぎをしながら過ごす女性。
毎日やりたいこともなく、妹が2人目を産み、なんだか生きていくのをやめろと言われているような気がして、たまらなくつらそうな感じ。
深夜のラーメン屋で YouTube に合わせて早食いしている間だけ、生きている実感が湧く。
毎日仕事と家の往復だけだと、鬱々としてきてしまいそうですね…。
情報が増えすぎていて、どこを見てもコスパタイパで息苦しい感じはありますけど、なにか趣味を見つけて『まいたの』してほしい、と心から思います。
4つ目『風が吹いたとて』
夫と2人きりだと、こんな感じで会話が続かなくなっちゃうんでしょうか…。
まだうちは子供が2人とも家を開けるということがほとんどないので…。
にしても、この夫さんがかわいそうですね。
夫さんにとっての『心理的安全性』がまったく担保されていない環境で、早晩心が病んでしまいそうです。
一方の子どもの方は、娘は持ち込んじゃいけないスマホを持ち込んだりしているし、息子はサッカーの試合で審判が見ていないところでラフプレーをするような感じなので、主人公の女性が「誰に似たのか」と訝しがっている感じでした。
が、「自分か!?」という気付きを得た当たりがすごいなと思います。
あとは、同僚の正社員の振る舞い、嫌ですねー…。証拠集められて訴えられればいいのに。
勝間和代さんがご自身の YouTube で「小さな信号無視とかもしないようにした方が良い。『犯罪』に対する敷居が下がってしまうから」と仰っていたのを思い出します。
私も、本当にそう思います。
あと『ミステリと言う勿れ』の整くんの「男性は男性だけでいると徒党を組んで悪事を働きやすい」(意訳)という台詞を思い出しました。
最後のシーンがなんだかおもしろかったです。
心理的な描写だとは思うんですが、その日の夕ご飯とか過部屋にあるものがどんどん風で吹き飛ばされていくんですけど。
想像するとおもしろいです。ちゃんと想像が合っているか心配ですが。
5つ目『そんなの痛いにきまってる』。
こいつに天罰が堕ちますように。
妻のほうが年収が上がって見下せなくなって、性欲がわかなくなったらしいです。
そのまま滅びればいいのに、あろうことかマッチングアプリで浮気してます。
しかも、その女性のことを『安心して見下せる対象』として認識しています。
滅びればいいのに。
夫婦って一番心を許せる相手じゃないと行けないんじゃないかと思いつつも、そうじゃない人たちもたくさんいるんだろうな、と。
自分にとっては、夫はそういう相手です。今のところは。
…変な意味ではなく、この先何があるかは誰もわからないですからね。
結婚てなんなのかな、と思ってしまいます。難しいです。
「先輩が SM 好きなのは、痛いときに痛いと言える環境があるから、それを黙って聞いてくれる人がいるからなんじゃないか」(意訳)というの、なんだかすごく腑に落ちたんですが…。
SM を好んでやる人の気持ちがわからなかったので。
なるほどなーと、目からウロコです。
最後、『籤』(くじ)。
この夫も地獄に落ちろ、と思いました。ほんとに。
で、この話が一番きつかったです。
妊娠中は誰もが不安に思いますよね。
そして、その『くじ』を引き当ててしまったときの絶望。
さらに大地震で動揺し、部下の身勝手な振る舞いに震える。
厳しいなと思いました。
この夫、地震でなんとかなってないかな。なってたら溜飲が下がるんですが。
たしかに、何かが起きたときに、自分を変えないでそのままいける人と、どうしても自分が変わらなければいけない人の2種類がいて、だいたいはその『はずれくじ』を女の人が引いてしまう傾向にあると思います。
もちろん『傾向』の話ですけど。
『マミートラック』という言葉もありますしね…。
私の妹は国立大農学部の院卒の高学歴なんですが、出産後は「マミートラックになってしまった…」と言っていました。
主人公の女性はそれらのことにもめげず、自分の運命も自分なりにハンドリングして、それなりに望む人生に修正してきた人でした。
強い女性なんだな、と思いました。
この先どうするのかわかりませんが、彼女には幸せになってほしい、と本当に思います。
ラストの数ページは、なんだか勇気をもらえたような気がしました。
解説が万城目学さんでした。
この本、先日読んだ『ヒトコブラクダ層戦争』と同じ時期だったようです。
突然全然関係ない本の話から始まるこの解説も、なかなかおもしろかったです。
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